KPECは、「住みたくなるまち」としての北九州の魅力を高めるための、企業を中心とする民間団体です。

公益財団法人 北九州活性化協議会(KPEC)

ABLEサロン

第66回 ABLEサロン 講演録

あいさつ

 本日は、お忙しい中、第66回エイブルサロンにお越し頂きまして、誠にありがとうございます。 このエイブルサロンは、平成3年から開催しておりまして、本日で66回、前回までの参加者が約2,600人となっており、それに加え本日は50人の方にご参加頂きました。今回の会場となった北九州イノベーションギャラリーはKPECが2億円を寄付して出来た施設であり、現在KPECは指定管理業務を受託し、この施設の運営を行っております。この施設は日本の産業の近代化に寄与した技術革新や産業技術の次世代への継承とイノベーションの生み出す力の育成を目的とし、教育普及事業を行っております。
 本日は、アジア低炭素化センター 技術移転マネジャー 飯塚誠氏をお招きして、アジア低炭素化センターの活動を紹介して頂きます。持続可能な社会を作り出すため、グリーンなイノベーションを創出する空間を作り、その場から新しい技術、新しいシステム、新しい材料を生み出し、世の中を変えていく取り組みが必要になります。日本、北九州から新しい仕組みを生み出し、広げていくことが我々の与えられた一つの役割であります。そういう意味で、このアジア低炭素化センターはそのきっかけの場となる施設になります。 講師の飯塚氏はアジアを駆け巡っております。アジアの現状を踏まえながらアジア低炭素化センターが目指そうとする方向、そしてこの施設が我々に齎してくれることに対し大きな期待をもっております。本日は、その中身を紹介していただきます。

(公財)北九州活性化協議会 専務理事 山﨑 朖

 

日 時 平成22年11月9日(火) 16:00~18:00
会 場 北九州イノベーションギャラリー
演 題 「アジアの低炭素社会を目指して ~アジア低炭素化センターの取組~」
講 師 アジア低炭素化センター 技術移転マネジャー 飯塚 誠氏

 

 本日はアジア低炭素化センターがどのような組織で、何をしてくれるのか、というところを期待されていると思います。当センターは今年6月に設立してようやく5ケ月になりますが、始めにアジア低炭素化センターの概要及び全国で初めて北九州に設立された背景を紹介します。北九州に設立した理由は30年間の公害克服の歴史であり、この中で海外との技術交流の基礎が築かれております。 北九州市の環境政策は4つのフェーズに分けられます。1980年代までは産業振興と環境破壊を経験し、公害を克服した時代です。第2 期の1980年代は(財)北九州国際技術協力協会(KITA)が設立されて、産業開発と環境保全の調和をめざした国際技術協力を展開した時代で、この経験が当センターのバックボーンとなります。第3期ではエコタウンを建設し、他の自治体が拒んでいたPCBを受け入れるなど、域内から域外の廃棄物の処理を展開してきました。中国の国家副主席であります習近平さんが昨年12月に来日されたように、ビジネスtoビジネス、自治体対自治体においては、中国の政府高官が頻繁にエコタウンの視察に来られております。現在、第4期になりますが、環境モデル都市を筆頭としながら、持続可能な社会を実現するために、低炭素化というテーマに対して、自治体、企業、市民などを巻き込んで官民一体となったビジネスに取り組んでおります。

 これまでの国際技術協力により国際都市間ネットワークが築かれ、図のように多岐に渡っております。例えば、KITAを中心とした研修員の受け入れや専門家の派遣など、このような経験が重要な資源となります。  KITAが進めたコンポスト化事業は10年間で草の根レベルまで展開され、今ではスラバヤ市から他地域に広がっています。女性の雇用も増え、コンポストの処理量も約8万トンに達し、CO2削減量に換算すると概算で約1万トンに達しております。現在、ヨーロッパの炭素クレジット価格は1500円/トンです。1万トンあれば、1500万円の価値に相当します。これが、低炭素化に向けた新しいインセンティブと言われております。地元の企業が低炭素化に取り組み易くするため、アジア低炭素化センターでは経済的インセンティブを検討しております。

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 この30年間の国際協力の歴史と資産を活用して、環境モデル都市として掲げたCO2削減目標を達成することがアジア低炭素化センターの大きな目的になります。環境モデル都市の中で、北九州市は唯一アジア地域で150%の二酸化炭素を削減するという挑戦的な目標を掲げております。具体的に言いますと、2005年に北九州市は1560万トンのCO2を排出しております。この2005年比に対して2050年に1.5倍の2340万トンのCO2を市内の企業のほか、日本の企業と連携した技術輸出により削減していきます。
 従来は北九州の中にマーケットを作って、日本で実証して、アジアに出て行くことが普通のプロセスでした。日本であまり実績のないものをアジア移転する場合、さまざまな問題を抱えることになります。特に、中国では知的財産の保護や代金回収などビジネスの障害となります。このような現状や課題をアジア低炭素化センターが改善したいのです。

 東田でスマート・シティの実証が始まりますが、日本で実証して、日本で実績を作って、アジア行くプロセスでは、世界標準として普及するのに時間がかかります。そこで、アジア低炭素化センターでは実証、標準化を同時に進めようとしております。 一方で、北九州市の中では、北九州市志賀副市長を副会長に商工会議所の竹沢副会頭が会長になり北九州環境産業推進会議という環境ビジネスのチームを作っております。このチームが北九州市もしくは日本でヒットしそうなものを選出し、アジア低炭素化センターが海外事業の促進を支援します。我々は研究開発をしませんが、これらはFAIS(北九州学術推進機構)が担当します。一方で、我々は地元企業の技術と現地ニーズのマッチングを行い、海外事業化の検討を進めます。

 過去30年間に蓄積された北九州のブランド(地域資源)の活用、環境モデル都市のCO2削減目標達成に向けた活動の展開、国内および市内で培われたスマートシティや水処理などの技術をパッケージとしたビジネスの推進をセンターが行っていきます。このような施設は日本で始めてであり、市長の期待も高く、頻繁に当センターに要望を出しております。我々は、一つずつ成果を出すことで、地元企業のイノベーションに繋がっていくと考えております。

 炭素化のビジネスには大小さまざま事業がありますが、当センターがアプローチするターゲットについて、日本の課題を元に説明します。

 官民一体となってインフラビジネスを進める国、シンガポール、アメリカと日本のアプローチを比較してみます。火力発電所や水ビジネスなど大規模なインフラの場合、政策から始まります。例えば環境ビジネスは規制のビジネスですから、政策、事業の企画から入りこむことが重要です。その後、基本計画ができて、設計、建設に至るのが通常の流れとなります。その中で日本の場合は入札段階、基本仕様が固まった段階でアプローチを開始しております。この段階で商社やエンジニアリング企業が連携せず応札しています。受注に成功している国の場合、特にシンガポール、アメリカは政策段階から入り込んでおります。人材育成、政策対話など金のかからない段階から関わっていき、ある程度スペックインしております。今まで日本はこのスペックインの段階にあまり関わっておりませんでした。

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 今、国はファイナンスなどリスクを取ろうとしております。但し、アジア低炭素化センターはリスクを取れません。融資や投資はできません。知的財産の保護もできません。そこで、低炭素化センターは他国で行われている政策段階から企業と連携して営業に取り組みます。都市対都市で共通の目的を持ったWin - Winの関係を維持しながら、スペックインしたい、ビジネスにしたい、チャンスを作りたい、そしてその見返りとしてCO2の削減量を獲得することが我々の目的です。例えば現在インドネシアのスラバヤ市と低炭素化ビジネスプラットホームの構築の議論を始めておりますが、スラバヤの場合、インドネシアでアドバルーン的なポジションを得て、雇用を増やし、最終的にはビジネスを振興しようとしています。先週、インドネシアに話しに行って、お互いの目的について同意しております。アジア低炭素化センターはこのような政策の部分に入り込んでいきたいと思っております。

 インフラビジネスをフェーズに分けますと、案件形成、建設、O&M(オペレーションおよびメンテナンス)という事業の流れになりますが、プレーヤーとして最初のFS(フィジビリティー・スタディー)、現地の実証試験が重要になります。アジアでは良い物を持っていっても、高くては売れません。このような現地化の手続きが必要です。資金面ではMETI(経済産業省)がFS、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実証試験を支援しております。現在、政府は出資のため新しくファンドを作っております。現在、当センターでは現地実証試験の予算の検討を行っております。このような段階から中小企業の方々が参入できる機会を作ろうとしております。

 アジア低炭素化センターのもう一つの目的に地域活性化があります。中小企業、エコタウンおよび学研都市のベンチャー企業の方々がアジアで稼ぐ仕組みを作っていこうと思っております。政策段階から関わらなければ、商社やエンジニアリング会社にイニシアティブを取られ、中小企業のビジネスチャンスの創出は難しくなります。今まで、悔しい思いを沢山しております。水ビジネスの場合、北九州の企業がチャンピョン(共同事業体の代表者)になることはあまりありませんが、クボタさんや住友商事さんがチャンピョンになったとしても、条件として事業の一部を北九州の中小企業に任される環境を作っていく必要があります。そこで、スペックの段階で北九州市の企業の優れた技術を込んでいこうとしております。

 次に、最近の日本企業の成功事例を紹介します。川崎重工の100%子会社のカワサキプラントシステムズはセメント製造に使われるキルン(回転式の窯)の廃熱および廃棄物処理プラントを開発し、中国でヒットしております。
 今まで中国では高くても日本の先進技術に対する強い需要がありました。しかし、技術流出を避けるため、最小限の技術しか出しませんでした。技術的にポテンシャルのある会社を選ぶのですが、価格が高い、パートナーと信頼関係がしっかりとできていないなど、現地化が十分に行われず、普及することなく、コピー製品が氾濫し、撤退することになりました。例えば、環境規制により排ガスの脱硫装置のマーケットが広がり、当初は日本の大手メーカーと現地企業と技術提携を行い、事業を行っていました。しかし、今では日本企業の多くがヨーロッパかアメリカの企業に負けています。その敗因はこの不十分な現地化でした。カワサキプラントシステムズさんもこれで失敗しております。
 そこで、失敗を繰り返さないよう、最先端の技術を持っていき、技術をオープンにし、現地企業との合作をします。基本的にはニーズを持っている企業をパートナーとします。ニーズがあることにより、現地化が上手く図れます。合弁により事業会社をつくり、十分な現地化をしました。最初は、価格を安く設定することになりますが、地方政府に対しスペックインが達成できれば、中国政府の商務部、科学技術部や環境保護部などに認められます。この時、価格が適正であれば普及します。この利益を新たな中国のニーズにあった製品開発に向け、ニーズを持っている企業の情報を収集します。カワサキプラントシステムズのキルンは現在普及し、スタンダードになりかけています。ある程度の規模のある企業にしかできない事業ですが、これらの知的財産に関しては、コアの部分を除き、ある程度盗まれてもしかたないと考えております。従って、開発費を3年間で回収するようにしておく必要があります。アジア低炭素化センターは企業のリスクを取れないため、事業戦略に直接関わることはできません。しかし、我々はビジネスの成功事例を研究し、皆様に紹介していきたいと考えております。
 GEのイメルト会長は「リバース・イノベーション戦略」を採っております。「リバース・イノベーション戦略」とは、米国で開発した先端製品を世界市場で販売するのではなく、新興国で開発された製品を世界で販売していくことです。水処理施設のビジネスなどでこの傾向が見られます。100億円の水処理プラントでなく、80億円の現地ニーズにそくしたメンテナンスが容易な設備の方が好まれます。このような発想の展開は大きな会社の話ですが、体力がなく、人材も乏しく、リスクも取れない中小企業にも展開できるよう支援していく必要があります。

 JICAなどは、BOPビジネス、いわゆる低所得者向けに環境負荷の小さな製品を普及させていこうとしております。先週インドネシアに行きましたが、インドネシアには17,000の島があり、電気のない離島があります。このような所で、YAMAHAさんが再生可能エネルギー、太陽光と風力のハイブリッドを活用した浄化槽の普及を目指しており、価格は4~500万でした。量については不明ですが、少し高いように思われます。もう少し安くして、メンテナンスを現地のコミュニティーやNGOが出来るようにする必要があります。これを売るため、現地のJETROなどに相談が来るそうですが、この対応は政府でも難しいそうです。インドネシアではNGOが一番課題を把握しており、こことの関係を深める必要があります。このようにBOPでは,今までのビジネスと発想を変える必要があります。NGOにはアンチビジネスの思想を持つ団体もありますので、そのような団体とwin-winの関係を築くことは難しく思われます。しかし、BOPではこのチャンネルも必要になってくると思われます。
 環境ビジネスと言えば、水処理や廃棄物・リサイクル分野をイメージしますが、低炭素化となるとエコカーや蓄電池などが大きな市場となってきます。日本、韓国、中国など内需拡大のため、戦略的にこの分野の投資を加速しております。韓国、中国の投資額から分かるように、激しい競争が始まっております。
 中国は新エネルギー産業振興計画に5兆円の予算をつけております。これに対する日本の優れた技術の活用を考えていく必要があります。低炭素化ビジネスにおいて、エネルギーを作る創エネ、エネルギーを貯める蓄エネ、エネルギーを省く省エネ、この3つの技術が鍵になってきます。パナソニックなどもこの3つの事業に再編しております。特に、これから蓄エネが要になってくると思います。
 また、企業のビジネスモデルもグローバル市場化により変革を求められています。例えば、今まで商社の蓄電池関連ビジネスはリチウムの原料調達、電池製造・販売、電気自動車製造・販売、電池のリサイクルに分け、各段階でそれぞれの強みを生かし投資をしてきました。しかし、このままでは利益が上がらなくなり、スピードがなく、差別化などの戦略が取れなくなりました。伊藤忠さんは原材料のリチウム資源開発からリサイクルまで、いわゆるバリュー・チェーンをこの2~3年で構築してきました。伊藤忠さんと連携して海外リチウム電池事業を展開する戸田工業さんは、北九州でリチウムイオン電池の正極材を製造しています。北九州に事業所をもつ日本コークスさんはリチウムイオン電池のコア部材を製造しております。鉄鋼業などの素材産業のある地域では、リチウムイオン電池などに関連した様々な要素技術が沢山あります。
 低炭素化の重要なテーマとしてエコカーがあり、特に電気自動車が普及しようとしております。現在、北部九州は自動車を年間150万台近く生産しようとしております。これらはガソリン車ですが、ガソリン車は多くの部品を必要とします。電気自動車になると部品数は大幅に削減されます。北部九州の部品製造業者はこの流れに対して、準備をしておく必要があります。我々も今後の事業の変化、マーケット構造の変化を予測し、北九州の基幹産業である素材産業や自動車産業を取り巻く環境変化に対して、準備をしておく必要があります。

 次に、低炭素化センターの概要を紹介します。当センターは環境モデル都市のリーディング・プロジェクトであり、今まで30年間培われた環境技術、ブランド、ノウハウを活用して、北九州の企業の皆さんに環境ビジネスの機会を提供していきます。 海外との取引、プロジェクトなどを積極的に取っていこうとしております。市内の企業だけでは対応できない場合があるかもしれませんので、その場合他の地域もしくは大手企業と組む場合もあります。このようなものを集約し、ビジネスを支援する形で、アジアの低炭素化を推進します。
 アジア低炭素化センターは北九州市の施設ではありません。任意団体です。 (財)北九州国際技術協力協会(KITA)が人材を育成し、北九州市が技術移転など環境ビジネスを推進し、環境省の外郭団体である財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が調査・研究を行います。この3つの組織を集めて、3つの機能を基に、ビジネスを支援していきます。 センター長は元東大総長の小宮山先生になって頂き、アドバイスを頂いております。 スタッフも各8~9名いまして、計26名になります。予算は3~4,000万円の事業費をもってやっております。アドバイザリーボードとして九州の経済界、学界および行政のリーダーが委員を努め、助言を頂いております。
 技術支援は北九州市、人材育成はKTA、調査・研究・情報発信はIGESが行い、これらの要素をパッケージとすることで環境ビジネスを展開していきます。また、環境ビジネス、技術移転による二酸化炭素削減量の定量化も重要な活動になります。
 産学官で構成される北九州産業推進会議、(財)北九州産業学術推進機構(FAIS)から顕在化されるニーズもしくはシーズを取り込んで、当センターは低炭素化に関わる海外ビジネスを支援します。センター内に市内中核企業により構成されるアジア低炭素化委員会や事業化推進研究会などをつくり、現地ニーズの共有や海外プロジェクトの提案・推進を検討し、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、北九州貿易・投資ワンストップサービスセンター(KTIセンター)、貿易振興課さんとも連携し貿易実務や契約書作成支援などは必要により他機関の協力を得ながら、ビジネスを推進します。今まで築いた都市間のネットワーク、海外事務所なども活用します。本年10月のエコテクノで開催した東アジア経済交流会議の環境部会は下表のよう構成され、今回は初めてビジネス商談会が行われました。

 当センターでは、弱みとする機能は提携により補います。1から創り上げる余裕はありません。そこで、先日国連工業開発機構(UNIDO)と提携しました。これにより、UNIDOのもつ世界の開発プロジェクトの情報が得られるようになりました。当センターはファイナンスができないため、国際協力銀行(JBIC)と連携しました。
 北九州市には環境産業推進会議がありますが、全九州でコンソーシアムを結成する際、九州経済産業局がバックアップする九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ(K-RIP)と連携して海外ビジネスを展開します。
 具体的な強みの分野は、東田地区のスマート・シティ、水ビジネス、エコタウン、クリーナー・プロダクション(公害抑制)や省エネ・省資源などでありますので、この分野を中心に技術輸出を重点的に進めます。
 スマートシティー分野は、8月に北九州スマートコミュニティ創造協議会が発足しました。先週インドネシアに行き現地政府関係者とこれらの事業について話をしましたが、ちょうど、経済産業省の方がインドネシアのスマート・コミュニティ関連部局と話を進めておりました。経済産業省さんと歩調を合わせる必要がありますが、このような早い段階で情報交換をしていくことが重要だと感じました。 次に、水ビジネスについてですが、もうじき水処理の最新システムの実証プラントが日明にできます。
 NEDOの補助金で東レと日立プラントテクノロジーの技術組合が運営を行います。これをアジア向けのショールームとして活用するため、検討を進めております。また、8月には官民連合組織であります北九州海外水ビジネス協議会が発足しております。 エコタウンについても、中国の大連、インド、タイなどで経済産業省の支援の下、協力事業をしております。
 現在、水ビジネス、スマートコミュニティ、廃棄物処理・リサイクル、石炭高効率利用、省エネ・新エネ事業の5つのテーマに対して、ターゲットを決めて、ビジネスの検討を進めております。

able66-p03.gif 次に、これまでの成果について紹介します。
 話が長くなりますが、京都議定書に盛り込まれた「クリーン開発メカニズム(CDM)」により、先進国が資金・技術支援を行い、開発途上国の持続可能な開発に貢献し、CO2を削減すると、削減分を排出権として先進国に移転できます。しかし、国連が管理するCDM制度では対象分野の偏り、方法論構築への長期化など問題があるため、コペンハーゲン合意(COP15)で国連を頼らず、各国が独自に行う取組に新たな可能性が提供されました。この流れに対応し、経済産業省は、多国間、2国間でCO2を削減するプロジェクトのフィジビリティ・スタディー(FS)を始めております。今回、1次、2次合わせて30件採用されています。この資料では、インドネシアが中心になりますが、原子力、石炭火力、セメントの廃熱回収など日本が得意な技術で、かつ相手として組やすい国を選んで事業を検討しております。先週訪問したインドネシアは東南アジアの中で地球温暖化対策に対して積極的な国のひとつです。
 多国間、二国間での排出権オフセットに関わるこの新たな施策を活用し、当センターは中国の地方政府の発展改革委員会と調整し、安川電機さんの高効率モーターとインバーターを活用した工場向け高効率モータシステムによるCO2削減のプロジェクトを共同で進めております。これは経済産業省の事業です。このようなCity to Cityの海外プロジェクトを官民一体で進めたのは今回のスキームでは初めてになります。他の案件は、商社や電力会社が事業主体となって進めております。このような新しい仕組み、官民が一体となることで信頼を得ることができると思います。来年度以降、City to Cityの事業を展開することで、北九州市内の企業を積極的に支援していきます。
 当センターは本年8月に中国の大連にミッションを派遣しました。このミッションでフジコーさんのマスクと呼ぶ光触媒を溶射した抗雑菌・脱臭タイルを売り込むため、大連理工大学の教授と実証試験に向けた協議をすることになりました。また、環境テクノスさんの大連市における省エネギーに関わるコンサルタント事業のFS調査がFAISの施策に採択されたので、当センターも環境テクノスさんと共同でESCO事業によるCO2削減量の試算方法について検討を進めております。さらに、このミッションで熊本の株式会社エコファクトリーのエコハウス、省エネ冷暖房に関わる事業のPRも行いました。この会社は私がK-RIPにいた時より関わっておりますが、1年半中国遼寧省の政府と議論した結果、良い地元企業を紹介して頂き、8月より事業交渉に入りまして、10月には共同事業化のための協定を締結しました。

(今後の活動)
 当センターは人員、資金に限りがあるため、テーマと相手方の都市を絞込み、今後これらに集中し事業展開を行っていきます。海外環境ビジネスではCity to Cityの自治体外交の側面もあるので、市長、副市長もしくは小宮山センター長を含めトップ営業も必要により行っていきます。我々に足りないところは、KITA、IGESなどと連携して、各自の強みを発揮するよう取り組んでいきます。 
 また、私の表現ですが、"世にないサービス"として、企業の低炭素化商品を普及させるために経済的なインセンティブの仕組みやアジア地域での標準化のイニシアティブを構築する試みも始めたいと思っております。1つ目は、先ほどお話しましたが二国間の二酸化炭素オフセットモデルの都市間版のような仕組みを検討しています。当センターは、先週スラバヤ市に行き、二地域間のCO2削減量の定量化、方法論の検討、モデル事業の展開などについてスラバヤ市と協議し、今後協力していくことになりました。
 2つ目は、アジアスタンダード(標準)の構築を目指しております。例えば、現地の水処理として何千億円もかかる最新鋭の施設は必要ありません。インドネシアのある島は100万円で安全な水を作ることを望んでいます。このようなニーズに応えるため、北九州市の技術やノウハウ、もしくは大企業のOBの方の知見を活用し、現地の商習慣や伝統を守りながら、ローコストで、現地の雇用を増やす形で、最適な技術を低炭素の分野で一緒につくり上げていきます。これらは、大きな利益はあがりません。コストが安く、メンテナンスが容易で、雇用が増え、お互いにwin - win となるような事業、アジアスタンダードの構築を目指します。
 最後に、アジア低炭素化センターは主役ではありません。企業の皆様が主役であり、我々はわき役ですが、スーパーサブを目指しておりますので、皆様方の屈託のない意見をお待ちしております。是非、北九州から低炭素のイノベーションを創出し、アジアの低炭素化や持続可能な社会への貢献を、皆様方とともに創造していきたいと思います。

(質疑応答)
質問: どのような技術領域でビジネスを展開しているのか、ひとつの例として事業化推進研究会の説明で示されましたが、この中で関連ある技術保有企業が示されておりますが、北九州市にある企業が少ないようです。北九州市の企業を出来るだけ支援するためアジア低炭素化センターができたと聞いておりますが、センターが支援対象とする北九州の企業と保有技術のリストはあれば、紹介して下さい。

回答: 当センター立ち上げ時に、地元企業と保有技術について調査しリストを作成しております。今回は、大きなプロジェクトのみ示したため、十分に地元企業を紹介できませんでしたが、市内の企業との連携を第一に考えております。例えば、若松の造船会社で小型の焼却炉を海外で販売しようとしております。他にも、水処理ビジネスで他地域と連携しようとしております。